5B-05 |
ボールの流れでInternetの仕組みを表現した |
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「インターネット物理モデル」の構築 |
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1. はじめに
近年インターネットの普及は大幅に進み、一般の人々の生活にも浸透している。我々は、この日常的に用いられる技術への理解を促すため、物理的な玉の流れによってインターネットの仕組みを表現した「インターネット物理モデル」を、日本科学未来館(東京、お台場)の展示物として制作した。
インターネットの物理的なモデルを玉の流れにより表現するには、ネットワークとして機能するよう実際の仕組みを忠実に再現すると同時に、できるだけ要素を絞り簡略化する必要がある。本論文のモデルではこれらの条件を満たしている。その実装について述べる。
2. Internet Protocolの特徴と表現
ネットワークの仕組みは一般にOSIの7層参照モデルによって階層化され、Internet Protocol(IP)はそのネットワーク層に位置する。IPは1964年にRAND研究所のポール・バランにより発明されたパケット交換方式[1]により情報の伝達を行う。以下のような特徴を持つ。
1. 通信網に属する端末それぞれにアドレスを割り当てる。
2. 転送しようとするデータを細かい単位に分割し、転送先のアドレスをヘッダーとして付与する。
3. 転送は複数の中継機(ルータ)を介して行う。各々のルータはパケットに付与されたアドレスを見て次に渡すべき転送先を判断する。
このような仕組みにより耐障害性の高い通信網を実現した。これを物理モデルによって表現する場合、
キ 元となるIPをどの程度忠実に再現するか
キ 表現されたモデルとして理解しやすいか
この二つの問題の間でトレードオフが生じる。パケット交換方式の原理的な性質を保持したまま、もっとも簡潔に表現する方法を考案した。
2.1 パケット
パケットはヘッダー8bit、データ8bitの計16bit長である。ヘッダーには送り先端末のアドレスが含まれる。
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図 1 端末Dに文字Aを送るパケット |
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図 2 端末アドレス対照表 |
アドレスはネットワーク部4bit、ホスト部4bitの計8bit長である。ネットワーク部のエンコーディングは2進数ではなく、4bitのうちのどこに1がくるかによって指定され、最大4つまで存在しうる。ホスト部は2進数によってエンコードされる。
2.2 ルーティング
インターネットとはネットワーク(LAN)とネットワークとを結びつけたものであり、その間を適切に繋ぐ仕組みをルーティング、そのための装置をルータという。ルータは送られてきたパケットの送り先アドレスに応じて適切な行き先に振り分ける。本モデルでは、ネットワーク間を結ぶルータは接続したネットワークへの複数の分岐点からなっており、それぞれの分岐点にあるアドレス判定機で逐次分岐の判定を行う。
個々のアドレス判定機にはリファレンスビットという分岐の条件を指示するビット列があり、ネットワークアドレスとリファレンスビットのANDをとった結果が0でない場合はそこで分岐する。分岐しなかった場合は次の分岐点へと進む。そこでも分岐しなかった場合はLANへ戻る。ネットワークアドレスは4bit中のどこに1があるかで指定されるため、一つのリファレンスビット中に複数の分岐先を指定できる。
もし分岐すべき経路が混雑してパケットを流せない場合は、他の分岐可能な経路に流す。全ての経路が混雑している場合は、そのパケットは破棄される。
LANを流れるパケットが端末へと振り分けられる仕組みは通常ネットワークカードが行なっている機能であるが、ここではその機能をもっとも基本的な二分岐を扱うルータであると捉え、ルーティングと同じ仕組みを使用し、ローカルルータと呼んでいる。ローカルルータでは、アドレスがリファレンスビットと完全に一致しているかで分岐を判定する。
3. 実装
3.1 ネットワーク接続図
ネットワーク全体は端末5台、ルータ5台、LAN4基からなる。この接続は1969年12月当時のARPANETの接続形態を模している。[2]
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図 3 全体像 |
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図 4 ネットワーク接続図 |
図5 2ビット(0と1) |
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3.2 パケット
直径37mm、重さ34gのプラスチック製の玉を使用し、白玉で0、黒玉で1を表現する。アドレス検出器は赤外線LEDとセンサーの組み合わせにより玉の白黒を検出する。玉が流れる経路はステンレス製で、傾斜により自重で転がるようになっている。
3.3 ルータ
ルータはステンレス製、高さ約130〜160cm、重さ150Kg前後のタワー型で、ルータに入ったパケットは外周のスパイラル状の経路を自重で転がり、経路の途中にあるアドレス判定機でルーティングされる。下まで下りたパケットは、中心にあるリフトによって上に持ち上げられる。
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図 6 ネットワークルータ |
図 7 ローカルルータ |
3.4 端末
端末は送出器と表示器にわかれ、高さ約100cmの傾斜のついた机の形をしている。送り先選択レバーと文字選択ホイールにより目的となるビット列を表示し、その通りに玉を並べていくことによりパケットの入力を行う。データはASCIIおよびJISによる文字データであり、同時に8bitの画像としても解釈されうる。表示器は送られてきたデータを8×8のエリアに表示する。対応する文字がLEDに表示される。
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図 8 端末B 送出器 |
図 9 表示器 |
4. 考察
物理モデルとして表現する際の簡略化により様々な問題が生じた。
・ パケットに戻りアドレスがないため、エラーを通知する方法がない。
・ TTLがないことにより無限に動き続けるパケットが存在する。
見渡せる範囲の展示物であるため、観客が自分で問題の発生を観察し対処することとした。
また、パケットの到達に掛かる時間は経路の長さに応じて40秒から4分程度であった。(経路に混雑が無い場合) これは、端末間でメッセージをやりとりするには長めの場合があるが、観客がその流れを観察するには適した時間と言える。
・ 再送やエラー制御がない。
上位プロトコルTCPは観客が実際に試してみるということを想定している。
5. 結論
インターネットを物理モデルにより表現した「インターネット物理モデル」の実装について述べた。ネットワークとしての機能を備えながらも簡潔なモデルを構築することに成功した。
参考文献
[1] Paul Baran, "On Distributed Communications", August 1964.
[2] Shapiro, E., "Network Timetable", RFC 4, SRI, March 1969.
Modeling a representation of the Internet using ball flows, "A Hands-on Model of the Internet" Kouichirou Eto, Satoru Sugihara, International Media Research Foundation (IMRF), 1-10-29 Jingumae Shibuya Tokyo, JAPAN Takuya Shimada, National museum of emerging science and innovation Ichiro Higashiizumi, Higraph inc., Tokyo Ryuichi Iwamasa, GK Tech inc. |