eto.com/2001/PhysicalInternet/presentation



ボールの流れでInternetの仕組みを表現した
「インターネット物理モデル」の構築



 江渡浩一郎 杉原聡   島田卓也   東泉一郎   岩政隆一 
国際メディア研究財団 日本科学未来館 Higraph(有) (株)GKテック

photo by 伊奈英次 (Eiji Ina)



インターネット物理モデルとは

→ボールの流れにより、インターネットの仕組みを表現した。
→日本科学未来館(東京・お台場)の展示物として構築された

→ムービー



インターネット物理モデルで目指していたものはなにか

インターネットの仕組みを比喩的に再現すること? →違う
インターネットの仕組みをそのまま再現すること? →違う

目標: インターネットを、本当の意味で理解すること。


本当の意味で理解するとはどういうことか?

→インターネットが発明された時点にさかのぼり、
そこで起こったことを理解すること。



そもそもインターネットとはなんなのか

インターネットとはなんだろうか?  最大の疑問。

ethernetはインターネットか →違う
メールやWWWはインターネットか →違う
ではTCPはインターネットか →違う

その間に挾まれた、IPこそがインターネットである。



最初の決定事項

IP(Internet Protocol)をモデル化することとした。

当初より決定していた重要事項:
→インターネットはネットワークのネットワークである。
→パケットは、渋滞を起こすと捨てられてしまう。
→そのとき、パケットは自動的に再送されたりはしない。

→端っこががんばる。インターネットはがんばらない。
両端にある端末ががんばることによって信頼性のある通信を実現している。



IPの特徴

IPとはすなわちパケット交換方式による通信を意味する。

1. 通信網に属する端末それぞれにアドレスを割り当てる。

2. 転送しようとするデータを細かい単位に分割し、
転送先のアドレスをヘッダーとして付与する。

3. 転送は複数の中継機(ルータ)を介して行う。各々のルータは
パケットに付与されたアドレスを見て次に渡すべき転送先を判断する。



Packet

パケットはヘッダー8bit、データ8bitの計16bit長。
ヘッダーには送り先端末のアドレスが含まれる。

○●○○○○○● ○●○○○○○● 端末Dに文字Aを送るパケット



Address Encoding

ホスト名  アドレス   端末A ○○○●○○○● 端末B ○○○●○○●○ 端末C ○○●○○○○● 端末D ○●○○○○○● 端末E ●○○○○○○● →ネットワークアドレス4bit、ホストアドレス4bitの計8bit

一つの端末のアドレスが、
ネットワークアドレスとホストアドレスとに分離していることが重要。
これがインターネットがネットワークのネットワークであることの本質である。



routing

→ルーターの各々の段が、routing tableのそれぞれの行に対応している。

→それぞれの分岐点にてアドレスを読み取り、
 分岐するかしないかを決定する。

→ネットルータとローカルルータが存在する。
 ローカルルータとはいわゆるネットワークカードに相当する。



ネットワーク接続図

1969年12月当時のARPANETの接続形態を模している。



ネットワーク全体像




Tangible Bit

黒と白のボールにより、0か1かという1bitを表現する。
(直径37mm、重さ34gのプラスチック製の玉)
photo by Kouichirou Eto



端末とルータ

観客はどれか一つの端末を選びパケットを入力する



送出器

送り先選択レバーと文字選択ホイールによりビット列を表示。



表示器

送られてきたデータを8×8のエリアに表示。
対応する文字がLEDに表示される。



ローカルルータ

端末に直結されたルータ。
一般的に言うところのネットワークカードを意味する。



ネットルータ

複数のネットワーク間を接続するルータ。



indication at NetRouter

アドレスの先頭4bit、ネットワークアドレスを判定する。



indication at LocalRouter

ローカルルータではホストアドレスの全一致判定を行なう。



実現

このようにして、物理モデルによってパケット交換方式を表現することを
実現した。

→もう一度movieを上映。



考察

物理モデルとして表現するにあたって様々な問題が生じた。

→TCPに属する機能、再送やエラー通知などがない。
これは意図したものである。TCPの機能は来場者が自ら行なう。

→パケット転送速度は40秒〜4分程度
つまり 0.2 〜 0.04 bit/sec
観客がその流れを観察するのに適した時間と言える。



観客の反応

→来場者のアンケート結果から、
1) 「良い」については物理モデルを挙げた人が最も多かった(13.3%)
2) 「良くない」についても比較的多かった(1.7%で3位)
3) 概ねどの層からも支持が高かった

→「良くない」印象は、説明がなくわかりにくかった点であるようだ。
ワークショップや説明書によって補完することを検討している。

結論

インターネットを物理モデルにより表現した
「インターネット物理モデル」の実装について述べた。

ネットワークとしての機能を備えながらも
簡潔なモデルを構築することに成功した。